休業損害の基礎収入

休業損害の計算の基礎

事故前の現実収入が原則

休業損害の基礎収入とは、休業損害計算の基礎とする収入額であり、原則として事故前の現実の収入額を基礎収入とします。

ただし、労働形態ごとに異なる捉え方がされており、以下のとおりです。


労働形態ごとの基礎収入 

給与所得者の場合

主に会社員や公務員の場合です。
給与所得者の休業損害は、事故前の収入を基礎として、受傷によって休業したため現実に収入が減少した分が賠償の対象となります。
その資料として、一般的には、勤務する会社に「休業損害証明書」や「賞与減額証明書」を発行してもらいます。

事業所得者の場合

商工業、農林水産業、自営業、自由業などで事業所得を得ている事業主の場合も、休業損害の賠償が認められるためには、現実の収入減を要します。
休業中の固定費(家賃、従業員給料など)の支出は、事業の維持・存続のために必要やむを得ないものは損害として賠償が認められます。

会社役員の場合

会社役員の報酬については、労務提供の対価部分の減収は休業損害といえますが、実質的に利益配当である部分の減収は休業損害の賠償から除外されます。
単純に減収分が休業損害として賠償されるわけではないということになります。
役員報酬のうち労務提供の対価部分の判断要素としては、会社の規模(および同族会社か否か等)・利益状況、その役員の地位・職務内容、年齢、役員報酬の額、他の役員・従業員の職務内容と報酬・給料の額(親族役員と非親族役員の報酬額の差異)、事故後のその役員および他の役員の報酬額の推移、類似法人の役員報酬の支給状況など諸般の事情が考えられ、これらを総合考慮して個別具体的に判断するものとされています。

家事従事者(主婦など)の場合

主婦などの炊事・洗濯・掃除・育児といった家事は現実に賃金を得るものではありませんが、判例は、家族のために家事労働に従事している場合に、事故による負傷のため従事できなくなった期間について金銭評価をして休業損害を認めています。
その金銭評価の基礎収入の指標として政府の賃金統計(賃金センサス)を用います。
就労もしていてその仕事と兼業で家事に従事している場合は、現実収入の金額と賃金センサスを比較して、高い方を基礎収入とします。
ただし、保険会社は異なる計算をしてくることがあります。

失業者の場合

失業者の場合、労働能力労働意欲があり、事故による療養期間中に、事故がなければ再就職していたであろう蓋然性があれば、休業損害の賠償が認められやすくなります。
基礎収入としては、失業前の現実収入の額や、再就職したはずだったと予測される職業、性別、年齢など諸般の事情から判断されますが、平均賃金よりは下回る可能性があります。

学生・生徒等の場合

学生・生徒等の場合、原則として休業損害の賠償は認められませんが、アルバイトなどの収入があれば基礎収入と認められます。
また、就職の遅れによる損害は、裁判では多く認められており、基礎収入は、就職先が決まっていればその給与額、そうでない場合は賃金センサスにより就職していたはずの年齢の平均賃金を用いて算出することが多いです。


給与所得者の日額の算出方法

以上のうち給与所得者の基礎収入については、休業損害証明書に記載されている事故前3か月の給与額の合計について、90日で割って平均日額を算出する方法と、稼働日数で割って平均日額を算出する方法があります。

このうち90日で割る方法では、その90日には勤務先の所定休日(土日祝日など)が含まれていて、稼働日数で割る方法よりも平均日額が低額になります。
この方法でも、事故後に休業日が連続している場合は、90日で割った平均日額に、勤務先の所定休日も含めた休業日数を乗じて休業損害を計算することはあります。

他方、事故後に出勤日と休業日が混在していて、勤務先の所定休日を休業損害における休業日とみることが困難な場合に、90日で割った平均日額に実際の休業日数のみを乗ずると、低額な計算となってしまうため注意を要します。


減収が損害と認められない場合も

以上でご説明したことからすると、交通事故により減収があっても、ちゃんとした証明書が勤務先から発行されない場合、減収の全てについて休業損害が認められるとは限らないということになります。

また、給与所得者は、事故がなければ昇級するはずだった場合、その昇級後に得られるはずだった収入の減少を主張したくなりますが、証明できないと認められにくいです。

すなわち、休業損害については、事故後に収入がどう変化し、そのうち事故を原因とする減収がどれぐらいかを検討することになり、この検討は、後遺障害逸失利益の検討にも影響します。


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